債権回収としての相殺

手間要らずの債権回収
 どのような事業でも、掛け売りにする限り、ついて回るのが未払債権の回収です。しかし、もし相手方に対して金銭債務を負っていた場合には、それとの見合いで、一方的な意思表示で相手に対する債権と「チャラ」にすること(相殺)で解決できます。

 その意味で、相殺は、手間暇や過分な費用を払わない、非常に強力な債権回収方法といえます。

相殺ができるための一般的な要件とは?
 それは、①お互い債権が対立しあっていること、②双方の債権が同種の目的を有する債権であること、③こちらの相手方に対する債権の弁済期が到来していることです。①は、自ら持つ債権の相手方と自ら債務を負うその債権者が別の法人格ではダメということです。②は、実情からして、「双方金銭債権であること」と限りなくイコールと思っていただいて結構です。③は、相手方の持つ期限迄は支払わない自由(期限の利益)は奪えないということです。

相殺が禁じられる場合もある 
 他方、個別的に相殺が禁止される場合があることにご注意下さい。主なものは次のとおりです。
① 自らの債務が不法行為による損害賠償義務である場合(これを認めると、復讐による解決を認めることになる)
② 自らの債務が差押禁止債権(例:扶養料、給料、恩給)の場合(生活保障の観点から現実に支払われなければならない)
③ 自らの債務について、別の債権者から差押えを受けた後に、相手方に対する債権を取得した場合(相殺を認めると、先に差押えをした別の債権者にとって、差押えが無駄となる結果となり不当となる)
④ 自らの債務が株式払込請求権である場合(株式会社への出資では、出資金額が現実に会社に入らなければならない)。
⑤相手方において支払停止、倒産手続申立等一定の危機的状況になってから、債権を取得し、あるいは、債務を負うようになった場合(相殺を認めると、もともと回収不能の債権だったのに、相殺によって全額回収と同等の結果となり、他の債権者との関係で余りに不公平な抜け駆けとなる。もっとも、相殺が許される場合もある)